続々ピタゴラス数(3)

● ユークリッドの互除法 ●

 

ユークリッドの互除法を行列を用いて表すと、どうなるでしょうか。

 たとえば、(a、b)の最大公約数と、

(a+b、b) や (a+2b、b) や (a+2b、2a+5b) の最大公約数は同じになりました。

 (a、b)を、これから生じた(x、y)を、として見てみることにしましょう。

 たとえば、(x、y)=(a+b、b) , (a+2b、b) , (a+2b、2a+5b) は、(a、b)の子になっています。

 

 それでは、行列に表してみましょう。

 (x、y)=(a+b、b) はこうなります。

     (x) =  ( 1  1)(a)
     (y)     ( 0  1)(b)

 (x、y)=(a+2b、b) はこうなります。

     (x) =  ( 1  2)(a)
     (y)    ( 0  1)(b)

 じつは、(x、y)=(a+b、b) に対する行列を

     A = ( 1  1
        ( 0  1)

とすると、行列の積を用いれば

    A*A = ( 1  1)( 1  1) = (1*1+1*0  1*1+1*1) =  ( 1  2)
         ( 0  1)( 0  1)     (0*1+1*0   0*1+1*1)  ( 0  1)

となり、(x、y)=(a+2b、b) に対する行列になります。

 

 それでは、(x、y)=(a+2b、2a+5b)に対する行列はどんなものでしょうか。

     (x) =  ( 1  2)(a)
     (y)    ( 2  5)(b)

 それには、(x、y)=(a、b+a)に対する行列

     B = ( 1  0)
        ( 1  1)

を用います。

  (a、b)=(a+b、b)=(a+b+b、b)=(a+2b、b+a+2b)=(a+2b、a+3b+a+2b)=(a+2b、2a+5b)

 このことを行列を用いて表すと、(行列を右から左へと書いていくことに注意すれば)

          A     A*A          B*A*A         B*B*A*A

となります。実際に計算してみれば

     B*B*A*A = ( 1  2)
             ( 2  5)

となることが確かめられます。

 

 (a、b)を親としたとき、たし算して(a+b、b) とするのではなく、ひき算して(a-b、b) とするなら、 

Aの逆行列

     A-1 = ( 1 -1
           ( 0  1)

となります。

 たし算して(a、b+a) とするのではなく、ひき算して(a、b-a) とするなら、

Bの逆行列

     B-1 = ( 1   0)
           ( -1  1)

となります。

 親から子を出すには、これらA、A-1 、B、B-1 の積で生成される行列を用いることになります。

  A = ( 1  1
     ( 0  1)
 A-1 = ( 1 -1
      ( 0  1)
  B = ( 1  0)
     ( 1  1)
  B-1 = ( 1   0)
       ( -1  1)

 

 さて、これら A、A-1 、B、B-1 には共通のことがあります。

 どれも行列式が1になっているのです。 

 したがって、これらの積から生成される行列も、その行列式は1になります。

 たとえば、先ほどの

     B*B*A*A = ( 1  2)
             ( 2  5)

では、たしかに行列式は 1*5-2*2 = 5 - 4 = 1   と1になっています。

 


● ユークリッドのトリプル除法(?) ●

 それでは、数が2つの場合の(a、b)ではなく、

3つになった場合の(a、b、c)で見ていきましょう。

 (a、b、c)を、これから生じた(x、y、z)を、として見てみるのです。

 今度は、たし算だけに限っても、もとになるものが6つもあります。

      (a+b、b、c)   (a+c、b、c)

      (a、b+a、c)   (a、b+c、c)

      (a、b、c+a)   (a、b、c+b

 これらを表す行列を、Ab、Ac、Ba、Bc、Ca、Cb としましょう。

 すると、次のようになります。 

 ちなみに、Ab-1 、Ac-1 、Ba-1 、Bc-1 、Ca-1 、Cb-1 はその逆行列で、ひき算することになります。  

      ( 1    1    0 )
Ab =   ( 0    1    0 )
         ( 0    0    1 )
     ( 1   -1    0 )
Ab-1 = ( 0    1    0 )
          ( 0    0    1 )
      ( 1    0    1 )
Ac =  ( 0    1    0 )
         ( 0    0    1 )
     ( 1    0   -1 )
Ac-1 = ( 0    1     0 )
          ( 0    0    1 )
      ( 1    0    0 )
Ba =   ( 1    1    0 )
         ( 0    0    1 )
     ( 1    0    0 )
Ba-1 = ( -1   1   0 )
          ( 0    0    1 )
      ( 1    0    0 )
 Bc =  ( 0    1    1 )
         ( 0    0    1 )
     ( 1    0    0 )
Bc-1 = ( 0    1   -1 )
          ( 0    0    1 )
      ( 1    0    0 )
Ca =   ( 0    1    0 )
         ( 1    0    1 )
      ( 1    0    0 )
Ca-1 =  ( 0    1    0 )
           ( -1   0    1 )
      ( 1    0     0 )
 C= ( 0    1     0 )
         ( 0    1    1 )
      ( 1    0    0 )
Cb-1 =  ( 0    1     0 )
           ( 0    -1   1 )

 これらの行列にも、共通のことがあります。

 それは、どれも行列式が1になっていることです。 

 したがって、これらの積から生成される行列も、その行列式は1になります。

 

 


● 子ピタゴラスの行列 ●

(a、b、c)が親ピタゴラス数のとき、これから生じる子ピタゴラス数   

     (a-2b+2c、2a-b+2c、2a-2b+3c) 

     (-a+2b+2c、-2a+b+2c、-2a+2b+3c)

     (a+2b+2c、2a+b+2c、2a+2b+3c)

の行列はどうなっているでしょうか。

(x)     ( 1  -2  2)(a)
(y) =  ( 2  -1  2)(b) ,
(z)     ( 2  -2  3)(c)
(x)     (-1  2  2)(a)
(y) =  (-2  1  2)(b) ,
(z)     (-2  2  3)(c)
(x)     ( 1  2  2)(a)
(y) =  ( 2  1  2)(b)
(z)     ( 2  2  3)(c)

 では、行列におきかえてみましょう。

  (a、b、c)=(a+c、b、c)  ・・・> Ac

       =(a+c-b、b、c-b) ・・・> Cb-1 *Ab-1  または Ab-1*Cb-1   

       =(a+c-b、b+a+c-b、c-b+a+c-b)=(a+c-b、a+c、a-2b+2c) ・・・> Ca *Ba  または Ba *Ca

       =(a+c-b+a+c、a+c、a-2b+2c)=(2a-b+2c、a+c、a-2b+2c) ・・・> Ab

       =(2a-b+2c、a+c+a-2b+2c、a-2b+2c)=(2a-b+2c、2a-2b+3c、a-2b+2c) ・・・> Bc  

  いちおう、(行列は右から左へと書いていくことに注意)      

      Bc * Ab * Ca * Ba * Cb-1 * Ab-1 * Ac      

を計算して確かめてみましょう。

                                ( 2     -1     2 )
      Bc * Ab * Ca * Ba * Cb-1 * Ab-1 * Ac =( 2     -2     3  )
                                ( 1     -2     2  )

 おっと、

  (x)     ( 1  -2  2)(a)
(y) =  ( 2  -1  2)(b)  ではなく、
(z)     ( 2  -2  3)(c)
(y)     ( 2  -1  2)(a)
(z) =  ( 2  -2  3)(b)  
(x)     (1  -2  2 )(c)

が出てきてしまいました。

 とはいっても、気にすることはありません。

 先ほどの結果を見れば、納得というものです。

 何なら出てきた行列の、2行と3行を入れかえ、さらに1行と2行を入れかえればいいだけです。

 そうすると、行列式の値は(マイナス)×(マイナス)で、もとにもどります。

 行列式の値は、どちらも1です。

 

 (a、b、c)が親ピタゴラス数なら、

     (a-2b+2c、2a-b+2c、2a-2b+3c) も、

     (-a+2b+2c、-2a+b+2c、-2a+2b+3c) も、

     (a+2b+2c、2a+b+2c、2a+2b+3c) も、

子ピタゴラス数ということでした。

 ここで並べてある順番は、じつは右が斜辺で一番長く、真ん中は偶数左は残りとなっているのです。

 先ほど順番が入れかわったのは、そんなことはおかまいなしに、計算しただけだからです。

 


● 沼倉の行列 ●

 さて、問題の行列の行列式はいくらになっているでしょうか。

(x)     ( 1  -2  2)(a)
(y) =  ( 2  -1  2)(b) ,
(z)     ( 2  -2  3)(c)
(x)     (-1  2  2)(a)
(y) =  (-2  1  2)(b) ,
(z)     (-2  2  3)(c)
(x)     ( 1  2  2)(a)
(y) =  ( 2  1  2)(b)
(z)     ( 2  2  3)(c)

 左と真ん中の行列式は1であるのに対して、右の行列式は−1となっています。

 だからといって、何が問題というわけでもありません。

 しょせんは、並べる順番のちがいだけです。

 

 不思議なのは、沼倉さまが問題にしている行列Pです。

 あの、プラス、マイナスを吸収して1つに統一した行列Pです。

         ( -1  -2   2 )
      P = ( -2  -1   2 )
         ( -2  -2   3 )
 

 もっとも、あの吸収説は、わたしの下手なコジツケにすぎません。

 さて、この行列Pの行列式が1という程度なら、まあ不思議でも何でもありません。

 そうではなくって、最初に行列Pをメールで拝見して、すぐに気づいたことがあるのです。

 それは、この行列は、逆行列が自分自身と同じになっているということです。

 つまり

                −1
         P=P

です。

 いったいどこから、こんな行列が出てきたというのでしょうか。

 沼倉さまは、メールの中でこう書かれていました。

 


 私がPを発見したのは偶然だったのです。


 表計算ソフトを使って行列計算をさせようとして、サンプルとして適当に入力していたんです。


 そうしたら偶然ピタゴラス数からピタゴラス数が出来る事が解ったんです。
 

 

 はあ、世の中には、そういうこともあるのでしょうか。

 プラス、マイナスも考えると、『ロト6』の比ではないように思えるのですが・・・。

 

 さて、いろいろ書いてはみたものの、事態は全然解決に向かっていません。

 はたして、沼倉さまの予想は正しいのでしょうか。

  


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